第2回: 夜勤を評価する3つの社会的価値

POINT
●「安全性」「健康性」「生活性」の価値から夜勤を評価する
●「生活性」が守られれば,「安全性」「健康性」も守られる

看護師の夜勤の社会的価値を問いただす

 いきなり「看護師の夜勤の社会的価値を問いただす」だなんて,ちょっと怖い感じがしますね。でも,すべての労働は,社会的な価値に照らし合わせて,働く者にとって問題があるかを常に確かめていくことが必要なのです。なぜなら職場では,日々,みんな一所懸命働いているので,仕事の遂行上の問題は常に目につき,また目につくよう仕向けられていますが,社会的な価値を踏まえて自分の働き方にどんな問題があるのかということには意外と気づきづらいからです。 一般に,働き方を点検する社会的価値は3つあります。それは,安全性健康性生活性の価値です。これらがどうして社会的な価値かといいますと,これら3つの価値が低下すると社会的な大きな問題となるからです。

 その点で安全性や健康性は理解しやすいですね。しかし生活性はイメージしづらい? では,たとえば2008年に派遣切りにあった労働者が東京日比谷公園の“年越し派遣村”で過ごさざるを得なかったといった問題を考えれば理解しやすいのではないでしょうか。生活性の問題は,マスコミや政府まで動かして社会的な大問題になりました。

 看護師の夜勤の評価においても,それは例外ではありません。表1は,この3つの社会的価値の視点に2つの軸を入れたものです。2つの軸の1つは「緊急性」,もう1つは「実感性」です。

表1 看護師の夜勤を評価する3つの社会的価値
緊急性実感性
1. 安全性
2. 健康性
3. 生活性

 緊急性とは,その仕事にとってこれらの3つの価値のどれを優先させなければならないかということです。看護師の夜勤では,「安全性」の価値が優先されます。なぜなら,とにかく医療従事者として患者の安全を守られなければいけないからです。 

 実感性とは,これらの3つの価値のなかでもっとも身近に感じる社会的価値はどれかということです。ある看護師は「仕事中は常に患者が転倒しないよう考えているので患者の安全性かな」というかもしれませんし,「特に夜勤は体が資本だから健康性が一番身近に感じるわ」というかもしれません。でも,表1では,生活性のところに○印がついています。なぜでしょうか?

 それは「あなたの職場は何パーセント安全ですか?」とか「あなたは何パーセント健康ですか?」と質問してみればわかります。 つまり,実感としての安全性は,事故が起こらないとわかりませんし,実感としての健康性は,病気にならないとわかりません。そうです! 安全性や健康性は100%か0%のいずれかなのです!  しかし生活性は,たとえば「自分の希望する日に休みがとれた」とか,「組合運動の結果,給料が上がった」というのは,実感としてわかるわけです。ですから「実感性」としては,生活性の価値がもっとも大切なのです。

 ちなみに,生活性が守られれば,おのずと安全性や健康性も守られるというのが筆者の立場です。実は本連載で問題にしている16時間夜勤は,生活性を守るための究極の選択なのです。でも16時間は長すぎますね。

 さて,もう一度,表1を見てください。「緊急性」では安全性が,「実感性」では生活性が優先されることがわかりました。残った健康性は,みなさん,頭では大切なことはわかっているのでしょうが,結局,いつも後回しにされることが多く,気がついたときには,“後悔先に立たず”ということになりがちなのです。(2011年執筆)