第2回: 子どもの“いたずら”は好奇心と探求心の表われ(2002年)

 いじめが社会問題になり,少年犯罪の年齢低下が問題となって,政府は教育基本法を見なおすなどといいはじめました。両手を上げて賛成できないのは,子どもたちの心を荒ませている大きな原因は,今,話題の贈収賄をはじめとする腐りきった政治にその根源があると思うから。
*2000年3月,教育改革国民会議が改正を提起。その後,2006年12月15日,教育基本法改正が成立,12月22日,公布・施行された。

 現代の子育ては,こうした聞きたくない情報の飛び交う環境と条件のもとで行なわれるわけですから,本当に大変ですね。でも,もう卒業したからといって安穏としてはいられません。これからの社会での,高齢者の人生にも影響すると思うからです。IT革命とやらで,ますます直接的な人間関係が薄れそうな時代です。どんな子育てをするかを話し合い,考えなければと思います。そんなことを思っていたら,「いたずらが激しくって,このままでは非行になるかも」と本気で心配しているお母さんがいました。なぜいたずらが非行に?

子どものいたずら

 子どものいたずらには,いろいろな動機や目的があると思います。日ごろの大人をじっと観察して真面目に模倣をしているのに,大人はこれをいたずらといい。決して悪意などなかったのに,大人が叱ったり困ったりするので,今度は自分に注意を向けようと,意図的に悪さをするという場合もあるでしょう。

 もう1つは,大人の常識からは外れていても,好奇心にはじまる創造性の芽生えともいうべき行為です。大人の発想では理解できず,いたずらと決めつけてしまう場合。

 1歳5か月の真ちゃんが,静かだなと思っていたら,台所の流しの下の扉を開けて,容器から油をタラーリタラーリと,床に流し続けていたり。2歳のみよちゃんは,鏡台の前で口の周りを口紅で真っ赤にしてうっとり。これらは,観察と模倣の結果ですし,学習行動でもあるのですが,大人からは「困ったいたずら」と分類されてしまいます。

 親の心理としては,子どもの行なった行為を分かろうとする前に,後始末のため余分な仕事が増えたと頭にきて,即座に叱ることが多いのではないかしら。「油ってお手々ぬるぬるで気持悪いね」と,洗面所で手を洗いながら教え。「おお,怖い,怖い,みよちゃんのお口真っ赤っか。お化粧はもっと大きくなってからね」とやさしく。とはいっても,その場に居合わせたら,そんな風にはなかなかいかないのも現実でしょうけど。育児って忍耐ですね。

 困ったり驚いたりするお母さんの態度は子どもにしっかり焼きついて,何かのときに自分に注意を向けてほしくて,もっと大きないたずらをするかもしれません。意図的ないたずらは,子どもにとってはスリル満点ですから,大げさに驚いて見せるのも,時には大切です。

 ただ,いたずらといって済まされないことに,弱い者いじめがあります。これは,家庭や保育所での,自分より幼い子どもへのいたずらや,植物を残酷にむしったり踏みつけたり,生き物へのいじめ行為があったような場合,生命の大切さを教える機会として,きちんと向き合い厳しく対応すべきです。心底から,小さなもの,弱い者をいとおしむ心を育てるのは,日ごろの小さな積み上げだと思います。

働きながら育てることに自信を

 私の子育て時代は,母親が外で働いていて,その上夜勤があるなどと聞けば,多くの人々は「かわいそうに」と,同情の目で子どもを見るのが普通でした。現在では,女性就労者のうちの既婚者率が過半数を超えて,社会の環境も人々の意識も大分変わってきていることを感じます。

 看護師の働く環境も条件も変わりました。「産休をとる権利」は当然だし,希望すれば育児休暇も取れる時代です。子育てしながら職業を続けることも,自分の意志と家族の理解があれば可能です。悲壮感にふるえる必要もなければ,気負いも不要です。タイマーのセットさえしておけば,疲れて帰宅しても,炊きたてご飯はすぐ目の前にあって,子どもの我慢の糸の切れないうちに,夕食の準備をすることも可能です。汚れ物は自動洗濯機に入れてスイッチポンで済む時代です。

 とはいえ,幼な児を保育所に預けっぱなしでよいのだろうかと,悩むママもいたりして。自我が目覚めて反抗的になったわが子なのに,母親が働いているからだと自分を責めたり。もしかしたら,「お母さん」「ママ」と呼ばれたらすぐに返事ができて,一挙手一投足に関心をもって子育てができたらいいな,そうしたいなと思いがちかもしれません。でも,子どもの側からいえば,あまり見つめられていると,スリルのないこと夥しく,迷惑なこともあるのですよ。

 ただ昨今は,肌が飢えている子どもが多いことが,非行の要因であるともいわれます。「人間は,もし集団欲が満たせなかったら,精神の栄養失調を起こす」といい,肌の触れ合いは,100万の言葉よりも,どんな視聴覚の方法よりも効果的といわれます。その意味では,子ども同士まみれあって過ごす,保育所での集団保育は,子どもの発達にどれだけ有用であるか。たとえ保母さんが少々問題でも,保育所環境そのものが,親とべったりするよりずっとよいのだということに,確信をもって働きましょう。

 親が働いていることに負い目を感じて,子どもを甘やかすことは決してよくないけど,普通に母親できないのだから,短い時間でもいいから濃密な関係をもつように努めましょう。1日に1回は,「○○ちゃん大好きっ!」と,意識的なスキンシップのひとときを。母親が自分を見ている,関心をもってくれているという思いが,その子にとってどんなに安心なことか。そして,もうひとつの大切は,働く母親が仕事にほこりをもって,生き生きと働くことではないかしら。(2002年執筆)

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