第6回: 夜勤勤務編成のスタンダード その1

ルーテンフランツ9原則ポワソネ6原則

 これまで健康性,安全性,生活性の3つの側面から見てきた看護師の夜勤の科学的な知見は,西ドイツ(当時)の故ルーテンフランツ教授が示した9原則に網羅されています表1 1)

表1 ルーテンフランツ9 原則
1.夜勤は最小限にとどめるべき
2.日勤の始業時刻は早くすべきでない
3.勤務交代時刻は個人レベルで融通性を
4.勤務の長さは労働負担の度合いによって決め,夜勤は短くする
5.短い勤務間隔時間は避ける
6.少なくとも2連休の週末休日を配置する
7.交代方向は正循環がよい
8.交代の1周期は長すぎないほうがよい
9.交代順序は規則的に配置すべき
Knauthら,1982から作表

 実は,夜勤・交代勤務研究の歴史は,このルーテンフランツ9原則(以下,ル原則に科学的なお墨付きを与えてきた歴史だといっても過言ではないのです。

 ル原則は,夜勤・交代勤務者の生理,心理的な側面のみならず,家庭生活や社会生活の不利益の是正も含めた総合的な指針を打ち出している点でとても魅力的で,かつユニークな原則といえるでしょう。

 また2000年には,フランスのポワソネ博士が,看護師,介護士,そして医師などのヘルスワーカーを対象とした6原則を打ち出しました表22)

表2 ポワソネ6原則
1.できるだけ夜勤は減らす。できない場合は,長期交代より短期交代がよい
2. 9時間〜12時間のような長時間労働は,業務負担が適切な場合のみに限定すべきである。そのときでも,疲労や有害物質への曝露を制限する
3.日勤の始業を午前6時以前にしない
4.深夜勤と準夜勤を同日に行なうような短い勤務間隔時間は避けるべきである
5.連続勤務日は最大でも7日までとすること。少なくとも週末に2連続の休日を設ける
6.正循環の交代周期が望ましい
Poissonnetら,2000から作表

    

  

  といっても,これは,ル原則のうち,ヘルスワーカーには適用しにくいと思われる原則を除いて6原則にしたものです。

 ただし,表1表2を見比べてみてください。ポワソネ6原則(以下,ポ原則の原則1は,ル原則の原則1と8を兼ね備えていますから,ポ原則で除かれたのは結局2つになります。その対応関係を表3にまとめました。

表3 ルーテンフランツ9原則とポワソネ6原則の対応表
連続夜勤の制限
早朝始業の禁止
制度の弾力化
夜勤時間の短縮・夜勤負担の軽減
十分な勤務間隔時間
2 連休の週末休日
正循環の交代方向
交代周期の短縮
規則的な交代順序

 そこで,まずこれらの6つの共通原則について解説した後に,残ったル原則3と9を解説するという形で進めていきましょう。

連続夜勤の制限 ル原則1 ポ原則1

 ル原則とポ原則の第1原則は連続夜勤の制限です。第4回でオーストラリアのドーソン教授が行なったアルコール中毒法の研究をお示しした通り,夜勤は,そもそも単独でも危険なので,それを連続的には行なうべきではないというものです3)。他にも,連続夜勤を制限すべきという知見はたくさんあります。

 看護師と夜勤は切っても切れない関係ですから,夜勤をすることに対して,ツラいとは思いつつも,看護師は,その存在を疑わないのが一般的です。

 しかし,世のなかを見渡してみますと,どんな先進工業国でも,夜勤を行なっている労働者は,全労働人口の20%なのです。つまり世のなかは,残りの80%である常日勤者に合わせた社会生活リズムで成立しているわけです。

 したがって,この原則は,第4回で触れたように,見かけ上の夜勤慣れが生じるからといって連続夜勤を行なうのではなく多少夜勤はツラくても,常日勤者の社会生活リズムを維持するほうが,働き続けるという点でのメリットが大きいことを示しているのです。

早朝始業の禁止 ル原則2 ポ原則3

 第1回では,「準夜勤→日勤」が間違ったシフトの組み合わせであることの証拠の1つとして,この勤務の組み合わせが睡眠不安に陥りやすいことを紹介しました。

 早朝始業は,睡眠不安を介して睡眠の質を落とすだけでなく,公共交通機関が十分に機能していない状態での通勤になりますから,公共交通機関の発車時刻に合わせて生活せざるを得なく,看護師の生活を窮屈にさせてしまいます。

 ル原則では,具体的な時刻を記してはいませんが,ポ原則では業務の開始を,午前6時前にはすべきでないとしています。

夜勤時間の短縮,夜勤負担の軽減 ル原則4 ポ原則2

何よりも夜勤の労働時間はできるだけ短く

 わが国の看護現場では,平気な顔をして行なわれている16時間のような長時間夜勤は,本原則に堂々と反しています

 16時間夜勤は,当然ながら,人間の生理に反するばかりでなく,第5回で触れたように,その成り立ちが準夜勤と深夜勤を合わせたものであるため,常に睡眠不足状態にある看護師が,それを補える準夜勤後の夜間睡眠をうばってしまうとするオーストラリアのクリソールド博士の研究成果も紹介しました4)

 また,看護師という職業が“一生ものの仕事”と思える若年看護師が増えると,将来的には職場の定着率が高くなって,熟年看護師が増えるようになります。熟年看護師は,経験豊富で看護技術に長けているため,病棟にとってメリットが大きく,何よりも患者の安心に繋がります。一方で,熟年看護師は,どうしても加齢というハンデを背負っていますから,体力的には疲労の進展が早く,疲労の回復は遅くなります。

 したがって第5回で触れたように,たとえ何らかの理由で長時間夜勤が行なわれたとしても,長時間夜勤の最大のメリットであるはずの連続休日が,疲労回復に費やされることになり,熟年看護師にとって魅力的なトレードオフが成立しないのです。

 また第4回では,長時間夜勤の安全性に関して,長時間夜勤は,労働者個人による安全性が低下してエラーを増やすだけでなく,エラーを起こした同僚を同じ職場の仲間が発見できなくなる問題があるというオーストラリアのドリアン博士の研究を紹介しました5)

 したがって,これらの理由からも夜勤の労働時間はできるだけ短くすることが望まれるのです。

夜勤負担を軽くして仮眠をとる

 次に夜勤負担はどうやって軽くすることができるでしょうか? それには,まず深夜勤業務を他の勤務より減らすこと,そしてその減らした時間に仮眠をとることです。なぜなら,深夜勤中に仮眠をとると,3つの効果をもたらすことが知られているからです。

 その第一番目の効果は,深夜勤中の疲労回復効果と眠け解消効果です。深夜勤中の仮眠は,いつもの夜間睡眠と同じ睡眠時刻帯にとられるため,寝つくまでの時間が短く,疲労回復に必要な深い睡眠が多いという特徴をもちます。いわば夜間睡眠のミニチュア版です。したがって,疲労回復効果が昼間睡眠に比べてきわめて高いのです。そのため生活リズムのズレによって夜勤前にすでに一定状態にあった疲労を,回復する効果があります。また仮眠がとられることで,勤務終了までの覚醒時間が短縮し,とくに早朝時刻帯に生じる眠けの発現も抑えられます。

 看護師はよく深夜勤前に自宅で仮眠をとることが知られていますが,中央大学の斉藤名誉教授らにより,勤務前の仮眠の疲労回復力は,勤務中の仮眠より弱いことが報告されています6)

 したがって,まず疲労の回復の点から,勤務前に自分の自由時間を使ってとる仮眠よりも,勤務中にとる夜間の仮眠が重要ということです。深夜勤中に疲労を進展させないことは,深夜勤中の安全性の維持や短期的な健康性にとってとても重要です。

 第二番目の効果は,生体リズム維持効果です。深夜勤は,そもそも体温が低下していく時刻帯に起きつづけることになるため,日勤志向型のリズムが崩れやすいのです。そこで深夜勤中に仮眠をとると,睡眠には体温を下降させる働きがあることから,そのリズムが維持できるという理屈です。この仮眠の体温リズム維持に対する効果を英国のマイノルズ教授らは,アンカースリープ(係留睡眠)効果と名付けました7)

 図1を見てください。左の図は,1日のなかでもっとも長い睡眠(主睡眠)を,1日の任意の時刻にとれば,18時頃にある体温の1日でもっとも高い時刻(頂点位相)にリズム障害が生じて,日にちの経過にしたがって頂点位相は後ろにズレていくのがわかります。一方,右の図は,睡眠の一部(この場合4時間)を,いつも寝ている夜間にとっていれば,それがアンカー(錨)になって,頂点位相のズレは生じません。この4時間のアンカースリープ効果が,4時間の仮眠よりも短い仮眠でも生じるかを労働科学研究所の吉田特別研究員が検討しています8)。その結果,彼女らは,2時間の仮眠でもアンカースリープ効果があることを確認しました。

図1 体温頂点位相にみるアンカースリープ効果(Minorsら,1981を改変)

 第三番目の効果は,生活調整の効果です。深夜勤明けにとる昼間睡眠は,量や質の点から満足できる睡眠ではありません。したがって多くの看護師は,この睡眠で夜勤疲労を回復させるために,寝たり起きたりして過ごさなければなりません。そのツラさのためにこの昼間睡眠をスキップする若年看護師もいるほどです。

 そこで深夜勤中の仮眠は,睡眠の質の点で満足できる睡眠であるため,あらかじめこの仮眠で必要な睡眠の質を確保しておけば,昼間の睡眠では不足した分のみを補えばよいことになります。それによって寝たり起きたりする生活が改善され,睡眠以外に費やす時間が増えるのです。そもそも深夜勤明けは,看護師にとっては常日勤者のアフター5の時刻帯ですからね。これはその時間を,深夜勤中に仮眠をとることで,補償しようとする効果なのです。

仮眠をとることでイライラを軽減

 またさらなる効果が仮眠にはあるのです。皆さんは,深夜勤明けに,家族から「いつもイライラして」とか,久しぶりに会った昔の友人から「怒りっぽくなったね」とか,いわれたことはありませんか?

 どうも仮眠は,この怒りやイライラなどの人間に生じる負の感情を抑えるらしいのです。カリフォルニア大学のウォーカー教授のグループは9)仮眠をとる群ととらない群に分けて,いろいろな感情を表した写真をみせて,その情動反応を比較しました。その結果,図2のとおり,仮眠をとった群では,恐怖や怒りの感情写真に対する情動反応は低下し,幸福の感情写真に対する情動反応が増加したと報告したのです。

図2 4つの情動反応とレム睡眠の関係(Gujar, 2011 を改変)

理想の仮眠時間は8時間の夜勤で2時間

 では,理想の仮眠時間は何時間でしょうか? それは8時間夜勤では,2時間(120分)です。というと,現場からは「無理だよぉ?」という声が聞こえてきそうです。でも,8時間の深夜勤で2時間の仮眠は,患者が眠っている間の夜勤業務を,6時間にするだけなのです。そのためには,職場の仲間の同意と管理者の説得が必要でしょう。でもすでに夜勤は,患者や看護師双方にとって有害であることは科学的にわかっているのですから,そんなに難しいことではないはずです。

 2時間の仮眠効果を見ていきますと,約90分で現れるレム睡眠で起きる可能性が高いことから,目覚めもよく,安全性の効果に有効です。また体温の低下も睡眠開始後60分に向けて下降することから,アンカースリープ効果も期待できます。さらには,2時間も睡眠時間が確保されていれば,スムーズに入眠が行なえ,睡眠不安も生じにくいので,いつもの夜間睡眠と同じように睡眠開始20~30分後に深い睡眠が生じます。それによって昼間の睡眠時間が短縮し,深夜勤明けの,看護師にとっての“ アフター5” の時間を自由に使える効果があるというわけです。

 ちなみに前述したウォーカー教授は,仮眠で大切なのは,レム睡眠であると述べていますから,深夜勤中の2時間の仮眠のなかにはレム睡眠が必ず含まれるため,深夜勤明けに患者やその家族から,「優しい看護師さんね」といわれ,家族からは「最近,怒らなくなったね」といわれること,間違いなしです。

 さらには,第3回では,夜勤を長期間行なうと,乳がん・前立腺がんのリスクが高まることを紹介しました。そのメカニズムは夜勤では人工照明に曝露されるため,睡眠中に分泌される抗酸化作用や抗腫瘍作用があるメラトニンが抑制され,エストロゲンやテストステロンが異常に分泌されるためと説明しました10)。もし2時間の仮眠がとれれば,8時間睡眠に比べ分泌される量は少ないとしても,ある程度のメラトニンが分泌されるとしたらどうでしょう。2時間の仮眠は,長期的な健康影響にまで好影響を与えるのです。

2時間の仮眠がとれない場合は…

 8 時間夜勤で2時間の仮眠をとるために,どのような業務整理ができるかを考えているとき,病院の経営者が,「2時間の仮眠なら,夜勤時間を延長すれば,そうねぇ,たとえば16時間夜勤なら,可能なんじゃない?」と水を向けてくるかもしれませんね。でも,第3回で16時間夜勤の2時間の仮眠は,科学的に効果がないとした労働科学研究所の松元研究員らの結果をお示ししましたから11),その申し出は,キッパリ! お断りした方がよいでしょう。

 では,2時間はとれないけど,1時間ならとれるという場合は,どうでしょうか。苦肉の策ですね。1時間の仮眠でも効果はないとはいいません。ただし,2時間の仮眠の5つの素晴らしい効果(健康性,安全性,生活性の質の3つの効果+情動負担の軽減,乳がんリスク・前立腺がんリスク抑制効果)は,期待できません

 米国のスミス・コギンス准教授らは,外科緊急病棟にて3日間連続して夜勤を行なう医師や看護師に40分の仮眠(実際に眠れたのは,平均24.8分)をとらせて,深夜勤中と深夜勤後のパフォーマンスを測定しました12)。その結果,夜勤中のパフォーマンスはおおむね改善されましたが,勤務後の疲労を自動車シミュレーターを用いて比較した結果,仮眠なしの医師や看護師との間には差が示されなかったと報告しています。つまり40分の仮眠では,勤務後まで効果が持たないのです。

 また,この介入実験では,仮眠をとった後に,“ ぼぉー” とした感じが残ったと報告されています。これは,睡眠慣性といって,とくに深い睡眠などで目覚めると生じる仮眠の負の効果です13)

 仮眠ができる職場でも,この不快な気分が生じるから仮眠はしないという看護師がいます。それは,やはり仮眠をする時間が短すぎるのです

 最近,15分以下の超短時間の仮眠は,深い睡眠に達しないため,睡眠慣性もないと指摘されています14)。この極端に短い仮眠は,常日勤者がとる昼寝の研究のなかで,眠けの抑制に効果があることが報告されています。しかし夜間睡眠は,入眠後に素早く深い睡眠に移行しますので,昼間以上に睡眠慣性の影響を受けると思われます。なにより,仮眠時間が短いと,前述した仮眠本来のメリットは全く期待できないというわけです。

 ぜひ,8時間夜勤で2時間の仮眠をとって,その効果を実感してみてください。(2011年執筆)

1)Knauth P, Rutenfranz J. Development of criteria for the design of shiftwork systems. J Hum Ergol. 1982;11 Suppl:337-67.註:ルーテンフランツ(Rutenfranz)原則と言いながら,それが記されている論文は,彼の弟子のクナウト(Knauth)教授が筆頭著者なんですね.ルーテンフランツ教授は,1982年当時,国際産業保健学会・夜勤・交代勤務科学委員会の初代委員長でしたから,彼の名前を冠にしたということは,ネームバリューが高いという点も大きく関係していると思います.
2)Poissonnet CM, Véron M. Health effects of work schedules in healthcare professions. J Clin Nurs. 2000;9(1):13-23.
3)Dawson D, Reid K. Fatigue, alcohol and performance impairment. Nature. 1997 17;388(6639):235.
4)Clissold G, Smith P, Accutt B, Di Milia L. A study of female nurses combining partner and parent roles with working a continuous threeshift roster:the impact on sleep, fatigue and stress. Contemp Nurse. 2002;12(3):294-302.
5)Dorrian J, Lamond N, van den Heuvel C, Pincombe J, Rogers AE, Dawson D. A pilot study of the safety implications of Australian nurses’ sleep and work hours. Chronobiol Int. 2006; 23(6):1149-63.
6)斎藤良夫,佐々木司.病院看護婦が日勤─深夜勤の連続勤務時にとる仮眠の実態とその効果.産業衛生学雑誌. 1998;40:67-74.
7)Minors DS and Waterhouse JM. Anchor sleep as a synchronizer of rhythms on abnormal routines. International Journal of Chronobiology. 1981;7(3):165-88.
8)吉田有希,佐々木司,三澤哲夫,肝付邦憲.12 時間2 連続夜勤を想定した夜間覚醒時にとる仮眠の効果─仮眠後の覚醒水準に及ぼす影響─.労働科学 1998;74(10):378-90.註:文献7 のマイノルズ(Minors)教授は,体温リズムが最も高い時刻(頂点位相)のズレが生じないことを示しましたが,本論文では体温リズムが最も低い時刻(底点位相)がズレないことを報告しています.
9)Gujar N, McDonald SA, Nishida M, Walker MP. A role for rem sleep in recalibrating the sensitivity of the human brain to specific emotions. Cereb Cortex. 2011;21(1):115-23.
10)Stevens RG. Electric power use and breast cancer:a hypothesis. Am J Epidemiol. 1987; 125(4):556-61.
11)松元俊,佐々木司,崎田マユミ,内藤堅志,青柳直子,高橋悦子,酒井一博:看護師が16時間夜勤時にとる仮眠がその後の疲労感と睡眠に及ぼす影響,労働科学. 2008;84(1):25-9.註:看護実践の科学2010;35(2):70 参照.
12)Smith-Coggins R, Howard SK, Mac DT, Wang C, Kwan S, Rosekind MR, Sowb Y, Balise R, Levis J, Gaba DM. Improving alertness and performance in emergency department physicians and nurses:the use of planned naps. Ann Emerg Med. 2006;48(5):596-604.
13)Naitoh P, Kelly T, Babkoff H. Sleep inertia: best time not to wake up? Chronobiol Int. 1993;10(2):109-18.
14)Takahashi M, Fukuda H, Arito H. Brief naps during post-lunch rest:effects on alertness, performance, and autonomic balance. Eur J Appl Physiol Occup Physiol. 1998;78(2):93-8

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