第1回: 「3交代」に潜む落とし穴

POINT
●「つらい3交代」は「間違った3交代」
●間違った3交代勤務①「日勤→深夜」
●間違った3交代勤務②「準夜→日勤」
●間違った3交代勤務③逆循環勤務

1 つらい3交代は間違った3交代

 看護現場で「3交代勤務はつらい」という声がますます高まっていて,その代案として2交代勤務が積極的に導入されています。それも夜勤が16時間,日勤が8時間の2交代勤務です。日本医労連の調査によると,2交代勤務は,2005年に8.3%だったものが,2010年には25.5%になったと報告されています1。日本看護協会のデータにおいても同様な結果が示されています2。この2交代勤務の大部分が16時間夜勤なのです。

 ところが,世界のどこを探しても16時間夜勤という長時間勤務はありません。たとえば2004年に米国の看護師の生活時間調査を行なって全6,017勤務を調べたロジャーズ教授の研究では,16時間勤務はたった0.5%の30勤務だけです3。しかもこのデータは,日勤・夜勤すべての勤務を含んだ調査ですから,16時間夜勤に限定すれば,かなり少なくなります。それだけ16時間夜勤による2交代勤務はまれなのです。

 では,わが国では,どうして世界標準の3交代勤務が嫌われるのでしょうか? その代案として長時間勤務である16時間夜勤が導入されてしまうのでしょうか??

 それは,3交代勤務が悪いからではないのです。実は悪いのは,わが国で行なわれているのが間違った3交代勤務だからなのです。

 まず,その間違った3交代勤務に迫ってみましょう。

2 「日勤→深夜」がダメなワケ-間違った3交代勤務①

眠ろうとしても眠れない「睡眠禁止帯」

 看護師が3交代勤務のなかでもっとも嫌う組み合わせは「日勤→深夜」です。日勤は忙しく,残業なしでは終わりません。深夜勤までの間隔(時間)が短いことも嫌われる一因でしょう。しかし,それだけではありません。

 人間は「時間的な存在」(睡眠を何時間とったか)だけではなく,「時刻的な存在」(睡眠を何時からとったか)でもあるという考えは科学的に実証されています。人間には,生得的に「眠れる時刻帯」と「眠れない時刻帯」があって,眠れない時刻帯を「睡眠禁止帯」と呼びます。実は,「日勤→深夜」の間の19時付近はこの睡眠禁止帯なのです(実は,10時付近にもう1つの睡眠禁止帯があります)。→ ボックス1参照

ボックス 睡眠禁止帯としての19時

  下図は,イスラエルの睡眠学者であるラヴィ教授が1986年に発表した睡眠禁止帯実験の結果です。

  私たちの生活は,1日24時間であり,それはモデル的には16時間の覚醒時間(起き続けている時間)と8時間の睡眠時間,イコール24時間ということになっています。しかし,ラヴィ教授は,1日を20分にした面白い実験を行ないました。左の図も右の図も横軸は時刻で,朝の7時から翌朝の7時までを示しています。そこで実験の対象者に20分の周期で,つまり13分起きて,7分寝て,13分起きて,7分寝て,と繰り返させるのです。ですから,縦軸の睡眠時間は,最大7分というメモリになっています。

  左の図は実験の対象者に「眠らないようにしてください」と伝えます。でも,いつも寝ている夜間時刻帯は7分ギリギリまで寝てしまっていることがわかります。やはり夜は眠たいわけです。

  次に,右の図は実験の対象者に今度は,「眠るようにしてください」と伝えます。すると,やはり夜間時刻帯の睡眠は当然7分ギリギリまで寝ており,加えて左の図より右の図の方が長く眠っていることがわかります。

  しかし,19時付近はどちらの図でも長く眠れていないことに気づいたでしょうか? そうです,これが睡眠禁止帯なのです。

ボックス1 睡眠禁止帯としての19時
Lavie4,1986を改変

 通常では眠りに適さないこの時刻帯でも,意識すれば眠ることができますが,たいへん疲れたときや余裕がないときなどは,睡眠禁止帯にはなかなか眠れません。日勤をやっと終え,たいへん疲れている看護師の場合,19時前後の睡眠禁止帯に「さあ寝よう」と思っても眠れないわけです。ということは,日勤の疲労が回復しないまま深夜勤を行なわねばなりません。そのために,「日勤→深夜」はツラい=3交代はツラい=3交代はダメだ,という考え方に陥ってしまうのです。

 しかし,ダメなのは3交代ではなく,「日勤→深夜」という勤務の組み合わせなのです。

圧縮勤務とは

 では,なぜ「日勤→深夜」のように疲労が回復しない勤務の組み合わせをとっているのでしょうか。それは理由があります。①人間が「時刻的な存在」であることを考慮せずに,また,②現代の看護師の過重な労働負担があることも考慮せずに,単に勤務の組み合わせに関して一部の勤務間隔は短くして,一部の勤務間隔は長くする方法がとられたためです。これを夜勤交代勤務研究の用語では「圧縮勤務」といいます5

 「日勤→日勤」の場合,勤務間隔(日勤終了から日勤開始まで)は,モデル的には16時間です(実際には16時間を確実に切っていますが……)。でも「日勤→深夜」の場合,勤務間隔(日勤終了から深夜勤開始まで)は8時間しかありません(8時間あれば御の字ですが)。では,この差の8時間はどこに消えてしまったのでしょうか? 実は「深夜→明け→準夜」という組み合わせに吸収されているのです。

 この「深夜→明け→準夜」の勤務間隔時間はモデル的には,4時間(深 夜勤明け8時~12時)+24時間(12時~翌日の12時)+4時間(12時~準夜勤開始16時) で32時間となります。これが「圧縮勤務」というわけです。→ ボックス2参照

 圧縮勤務は,ただ勤務の組み合わせを変えただけなのです。日勤も夜勤も今より忙しくなかったひと昔前は,このような方法も有効だったでしょう。しかし現代では,日勤の過労を残したまま,もっとツラい深夜勤をこなすことを迫るような組み合わせは有効ではありません。

ボックス2 看護師の勤務間隔時間と睡眠時間の関係

  上図は看護師を対象に勤務間隔時間と睡眠時間との関係を示した奈良県立医科大学の車谷教授のデータ6)です。

  横軸は勤務間隔時間,縦軸は睡眠時間です。D/Dとは日勤(Day)と日勤(Day)の間の睡眠時間を示しています。図をみるとちょうど真ん中にある感じですね。一方,D/Nは日勤(Day)→深夜(Night)です。もっとも睡眠時間が短いことがわかります。一番睡眠時間が長いのは,N/Eで深夜(Night)→準夜(Evening)です。そこでこの図を見ながらD/NとN/Eの睡眠時間を足して2で割ってみてください。すると,ちょうどD/Dと同じような睡眠時間になりませんか?

   つまり圧縮勤務というのは,本文で述べたように,ただ勤務の組み合わせを変えただけなのです。

ボックス2 看護師の勤務時間間隔と睡眠時間間隔の関係
Kurumataniら6,1994を改変

3 「準夜→日勤」が有害なワケ-間違った3交代勤務②

仕事の緊張からのクールダウンには90分は必要なのに…

 看護師が3交代勤務でイヤな組み合わせはもう1つあります。それは「準夜→日勤」です。

 「日勤→深夜」と同様に,当然,準夜勤の後は居残り残業がありますから,勤務間隔時間は8時間を切ってしまいます。でも「日勤→深夜」と違って,「準夜→日勤」の勤務間隔時間は睡眠禁止帯ではなく,いつもとっている夜間睡眠の時刻帯なので,ぐっすり眠れるはず。どうして,この勤務の組み合わせを看護師は嫌がるのでしょうか?

 それには,2つの理由があります。

 1つは,準夜勤の居残り残業が他の勤務に比べて異常に長いことです。したがって準夜勤後は精神的緊張状態が続き,その状態で,「はい,眠りましょう」といっても,おいそれと眠れるものではありません。このような仕事の緊張が持続する場合,心身ともに睡眠に適する状態にクールダウンする必要があり,だいたい90分は必要といわれています7。長時間残業で勤務間隔時間が8時間を切っているのに,そのうえ90分も寝る準備に使うのは,たいへん苦痛だというわけです。

日勤に遅刻しないか不安で…

 また,このように短い勤務間隔時間の場合,就寝前に目覚まし時計をかけたとしても,寝過ごす不安があります。何しろ準夜勤の次は日勤です。遅刻はできません。そういう不安があるときの睡眠は,睡眠の質がとても落ちるのです。つまり,「準夜→日勤」では,たとえ睡眠に適した夜間時刻帯だとしても,質が落ちた睡眠しかとれないのです。

 こういう睡眠の状態をスウェーデンのオッケルシュタッド教授らは「睡眠不安」と名づけました8910。わが国にも「注意睡眠」という言葉があります11。読者の皆さんは小さい頃,翌日が遠足だというときに,目覚まし時計を起きたい時刻にセットした覚えがありますか? たとえば6時に目覚まし時計をセットしたとします。すると,2時や4時といった時刻には起きないのに,5時59分30秒のような,もうすぐ目覚まし時計が鳴るか鳴らないかというギリギリの時刻で起きた記憶があるでしょう。これが注意睡眠です。

 遠足は睡眠の質が落ちたままでかけても楽しいことがいっぱいあります。また「バナナはおやつを買うお金のなかに入るんですか?」と真顔で先生に聞いて,みんなに笑われた友だちもいたでしょう。そんな楽しい思い出が。でも,仕事はそのような状態ではつとまりません。

4 逆循環勤務の有害性-間違った3交代勤務③

逆循環勤務は生体リズムを調整しづらい

 最近は,「日勤→深夜」や「準夜→日勤」のような勤務の組み合せ自体が有害であるという研究が増えています。

 そもそも人間には,体温に代表される1日ごとに規則正しく刻むリズムがあります。このようなおおよそ1日で変化するリズムは,「概日がいじつリズム」といいます。人間のリズムは,実は24時間ではなく,25時間です12。そのために “おおよそ (概)=24時間 (日)”というわけです。

 人間の生体リズムを24時間に調整しているのは太陽光です。太陽光を遮断して生活リズムを計ると,リズムは1時間ずつ後ろにずれます。このことは,夜勤交代勤務の勤務編成においても,「日勤→深夜勤→準夜勤」のように時刻を早くする勤務編成(逆循環)よりも,「日勤→準夜勤→深夜勤」のように,時刻を遅くしていく勤務編成(正循環)のほうが身体を新しいリズムに調整しやすいことを示します。身近な例を挙げると,人間には頭の奥に体内時計のマスタークロックがあって(もちろん“腹時計”もありますが),いつも22時に寝ている人が,23時や24時のように時刻を遅くして眠ることは容易ですが,21時や20時のように22時より前倒しで眠ることは難しいのと同じです。

 時差ボケだってそうです。時差ボケの大変さは,海外旅行大好きな看護師ならよくわかると思います。時差ボケは「西早東遅」といって,西の方に行くと簡単に治り,東の方に行くと,なかなか治らないのです。たとえばパリにルイヴィトンのバッグを買いに行った方が(体内時計を遅らせること,つまり正循環)より,ニューヨークにヤンキースの試合を見に行く(体内時計を早めること,つまり逆循環)より,時差ボケの影響が少ないというわけです。でも面白いもので,パリに行った看護師は,帰りは東に帰らざるを得ず,ニューヨークに行った看護師は,西の方に向かうことになるので,帰国後はパリに行った看護師の時差ボケ状態がなかなか治らないというわけです。ですから,ルイヴィトンのバッグはせめて時差のない銀座で買いましょう。

*    *    *

 以上をまとめると,3交代勤務が悪いのではなく,現在の「逆循環の3交代勤務」(間違った3交代勤務)が悪いということに尽きると思います。

 したがって,その代案として長時間にわたる16時間夜勤が提唱される前に,まず,まともな3交代勤務とは何かを議論することが先決だろうということなのです。(2011年執筆)

  1. 2010年度夜勤実態調査結果.日本医療労働組合連合会.2010年11月15日 ↩︎
  2. 「2010年病院看護職の夜勤・交代制勤務等実態調査」結果速報.日本看護協会広報部.2011年5月31日. ↩︎
  3. Rogers AE, Hwang WT, Scott LD, Aiken LH, Dinges DF. The working hours of hospital staff nurses and patient safety. Health Aff(Millwood). 2004 ;23(4):202-12.  註:看護師の交代勤務について,わが国でもさまざまな知見が報告されていますが,現職の看護師が査読制度のない商業雑誌に報告している知見は科学性に乏しいという印象を受けます。その点,このロジャーズ教授らは立派な研究を行なっており,筆者も注目しています。 ↩︎
  4. Lavie P. Ultrashort sleep-waking schedule. III.‘Gates’and‘forbidden zones’for sleep. Electroencephalogr Clin Neurophysiol. 1986 ;63(5):414-25. 註:ラヴィ教授の翻訳本では『20章でさぐる睡眠の不思議』(大平裕司訳,朝日選書,1998年)が良書です。 ↩︎
  5. Volle M, Brisson GR, P?russe M, Tanaka M, Doyon Y. Compressed work-week:psychophysiological and physiological repercussions. Ergonomics. 1979;22(9):1001-10. ↩︎
  6. Kurumatani N, Koda S, Nakagiri S, Hisashige A, Sakai K, Saito Y, Aoyama H, Dejima M, Moriyama T. The effects of frequently rotating shiftwork on sleep and the family life of hospital nurses. Ergonomics. 1994;37(6):995-1007. 註:車谷教授のこのデータは全世界の交代勤務研究者から引用されています。 ↩︎
  7. 全国建設関連産業労働組合協議会:パパこっち向いて!守れていますかあなたの健康・あなたの家族.1984.註:労働者の疲労研究の第一人者である斉藤良夫中央大学名誉教授が分析しています。たとえばその100ページの図6-1がクールダウンに90分を要することを示しています。 ↩︎
  8. Torsvall L, Åkerstedt T. Disturbed sleep while being on-call:an EEG study of ships’ engineers. Sleep. 1988;11(1):35-8. ↩︎
  9. Åkerstedt T, Arnetz BB, Anderz?n I. Physicians during and following night call duty–41 hour ambulatory recording of sleep. Electroencephalogr Clin Neurophysiol. 1990;76(2):193-6 ↩︎
  10. Kecklund G, Åkerstedt T. Apprehension of the subsequent working day is associated with a low amount of slow wave sleep. Biol Psychol. 2004;66(2):169-76. ↩︎
  11. 渡辺博.注意睡眠の神経機序に関する臨床的研究.精神神経学雑誌 1969;71:631-652.   註:注意睡眠に関しては,広島大学の堀忠雄名誉教授が編著の『睡眠心理学』(北大路書房,2008年)に詳しいです。また東京医科歯科大学の西多昌規助教の『脳を休める』(ファーストプレス,2009年)は最新の睡眠研究の成果について平易に記されています。 ↩︎
  12. Czeisler CA, Duffy JF, Shanahan TL, Brown EN, Mitchell JF, Rimmer DW, Ronda JM, Silva EJ, Allan JS, Emens JS, Dijk DJ, Kronauer RE. Stability, precision, and near-24-hour period of the human circadian pacemaker. Science. 1999 ; 284(5423): 2177-81. 註:概日リズムが25時間だと書くと,ハーバード大学のツァイスラー教授(Czeisler)が24.18時間(24時間11分)という結果を出したことを知らないナと言われそうです。でも彼の結果は,厳格な条件の元で行なわれている実験結果であって,さまざまな「雑音」に修飾されて市井に暮らす人間の概日リズムは, やはり25時間に近いというのが筆者の立場です。 ↩︎