第1回: 通所介護で「こういう看護もあるのだなぁ」

 私はこれまで,大学病院など急性期の病院で働いた経験しかありませんでした。地域包括ケアの重要性が叫ばれるなか,地域・在宅における医療の実態をほとんど知らないのはマズイ! と思い,昨年より通所介護(デイサービス)の現場にお邪魔させてもらっています。

 そこでまず驚いたのが,詳細な既往歴や,内服している薬剤の種類がわからない利用者さんが結構いらっしゃるということでした。「カルテはどこだろう?」と探してみても,病院にあるようなカルテはありません。利用者さんの大まかな情報が書かれたものはありますが(例えば,「脳梗塞後」など),採血データやレントゲンの写真はないことがほとんどです。したがって,看護学生の時の実習や,病院勤務時代に当然のように行なっていた「情報収集」を,通所介護の現場で同じように行なうことは困難です。

 利用者さんがいらっしゃったら,血圧などバイタルサインの測定をします。ある日の利用者Aさんは血圧がいつもより少し高かったので,思い当たることがないか尋ねてみると,「今日の朝も血圧を下げる薬をちゃんと飲みました」とおっしゃいました。他のスタッフにこの話をすると,「Aさんは独居だから,薬をちゃんと飲めていないことが結構あるんだよ。自宅の薬箱を見たら,たまに残っていることがあるから」との返事が。病院なら,ちょっとでも「危なそうだな」という患者さんの内服薬は,看護師が管理しますよね。食後に薬を持って行って,看護師が口に入れて,きちんと飲めたかどうか口を開けてもらって確認することもあるでしょう。これが当たり前だと思ってしまっていた私は当初,非常に戸惑いました。

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 「今日はちょっとだるいなぁ」などと言われることもあります。バイタルサインはいつもと大きく変わらないけれど,今朝の採血データはどうだったっけ……,夜に睡眠導入剤でも飲んだのかな? 夜勤さんの記録を見返してみよう……というのは,病院だからできること。通所介護の現場で,「とりあえず心電図でもとっとこうか」なんてことはできません。だから,どうするかというと,全力で目の前の利用者さんに集中します。限られた情報の中で,目の前のその人に何が起こっているかを知ろうとしたら,自然と利用者さんに触れる回数も多くなりました。心電図モニターを見たくても,ないから見ることができないのです。

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 これまでの私は,「きちんと情報収集をしてから,患者/利用者のもとへ行かなければならない」と思い込んでいました。しかし,それが十分にできない環境で看護を提供しなければならないこともあるのです。もちろん,病院と通所介護では機能が異なりますので,どちらが良い/悪いという話ではありません。今回は,「こういう看護もあるのだなぁ」と知った,私の気づきをシェアさせていただきます。地域・在宅で働くベテランナースの方のご意見もぜひ伺ってみたいと思います。

(2018年執筆)