第2回: 患者さんはこんなに言いたいことがある

 皆さまの病棟にも,看護学生さんが実習に来られることがあると思います。私は指導者としてかかわったことはありませんが,学生さんから学ばせてもらうこと,ハッと気づかされることがたくさんあり,実習期間中はとても新鮮な気持ちになります。しかし,その反面,自分が恥ずかしくなることも多々あるのです。

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 ある時,「(看護)学生さん! トイレトイレ!」と言う患者さんの大声が聞こえました。たまたま近くにいたので,「トイレ,お手伝いしましょうか?」と部屋を覗いたら,「看護師さんは呼んでもなかなか来てくれないから,学生さんを呼ぶことにした。学生さんはすぐ来てくれるからな」とおっしゃったのです。看護師だって,何十分も,何時間も待たせているわけではありません。ですが,たった数分でも「ちょっと待ってくださいね」と言われて待たされるのと,呼んだらすぐに来て対応してくれる──この違いは非常に大きいのだ,と当たり前のことに改めて気づかされました。

 もちろん,看護師側にも言い分はあります。看護師2人で30人近くいる患者さんをみなければいけない時があり,そこで同時にナースコールが鳴ったら,すぐに全員に対応するなんて不可能です。ただ,そんなことはこっちの都合であって,患者さんには関係ない。「人がいないんだから,仕方ないでしょ」と,自分を正当化することだけはしてはいけない,と思わされた出来事でした。

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 また別の日には,こんなこともありました。入院してから1週間以上になる患者さんが,自宅から持ってきた薬を飲んでいることがわかったのです。医師も看護師も,誰もそのことを知りませんでした(※入院中に患者さんが内服する薬は主治医が処方するか,持参薬であっても主治医の指示のもとで内服してもらう)。なぜわかったかというと,患者さんからその話を聞いた学生さんが報告してくれたからです。

 患者さんに事情を聞きに行くと,「入院した頃に誰かに言ったけど流されちゃったから,深く考えてなかったの。みんな忙しそうだし,大したことでもないから,改めてわざわざ言わなくてもいいかなと思って」。患者さんは,自分の話をきちんと聞いてくれる人を選んで話していたんですね。

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 学生さんは自らの判断で何かすることができないので,こまめにさまざまなことを報告してくれます。「部屋にあるラジオを取ってきてほしいと言われました。いいですか?」「時計がよく見える場
所に行きたいそうですが,車椅子を移動しても大丈夫ですか?」「ゴミ箱のゴミ,捨ててきてもいいですか?」。そういう報告を受けるたび,患者さんがどれだけ遠慮して言いたいことを言えていないか,自分がどれだけ患者さんの訴えに耳を傾けることができていないか,グサグサと胸に突き刺さります。「学生さんは時間があるけど,私たち看護師は1人で何人もの患者さんをみないといけない。学生さんのようにはできないよ」ではなく,学生さんのほうがステキだ! と感じる部分は,積極的に学生さんの真似をしたいきたいなと思います。

(2019年執筆)