第5回: 自分の働き方と向き合う
この原稿を執筆している現在(注:2019年3月),医師の働き方改革に関する検討が進められています。折しも3月9日のニュースでは,自民党の小泉進次郎氏が,看護師や薬剤師への業務の移管などについて議論を進める考えを示したことが報道され,物議を醸しました。
皆さんは,ご自身の働き方や労働環境について考える機会はあるでしょうか。「サービス残業が多い」「常に人員不足で,いつもギリギリでまわしている」など,感じておられることはたくさんあるのではないかと思います。
私はこれまでの経験を通して,看護職である自分自身の働き方にきちんと向き合っている人ほど,患者・家族のことを考え,権利を擁護することができるのだと感じています。私が師と仰ぐ先生は,常日ごろから「自分の権利を主張できない人に,他者の権利は守れない。患者の権利と尊厳の擁護者を目指すなら,まずは自分の権利と尊厳からだよ」とおっしゃっています。今回は,この言葉が身にしみたエピソードをご紹介したいと思います。
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以前働いていたA病院で,「この状況で患者さんを抑制するのがよいのかどうか,ちょっと引っかかるのですが……」と先輩に相談したことがありました。するとその先輩は,「うちの病院はこういうやり方だけど,○○と書いている研究もあるし,△△というエビデンスもあるからね。僕は□□だと思っているけれど」と言いながら,関連書籍や文献を紹介してくれました。ほかの多くの先輩も,日々の疑問に対して丁寧に向き合っておられたという印象があります。
そしてA病院で緊急入院が複数あり,夜勤中に十分な休憩がとれなかったときのことです。勤務終了後,リーダーの看護師は,「休憩が取れなかった時間分,超勤つけて(超過勤務を申請して)くださいね。私から師長さんに状況説明しておきますから」と,夜勤のスタッフに伝えていました。
一方,B病院で身体抑制についてのカンファレンスを行なったとき,スタッフが口々に言ったのは,「仕方ないよ。人もいないし(看護師不足),抑制しないとまわらない。うちはブラックだからね」という言葉でした。
日ごろからB病院の休憩室でスタッフの会話を聞いていると,労働環境に対してさまざまな思いを抱えていることがわかります。しかし,「休憩がとれない」「残業が多い」「休み希望を申請しても通らない」などの不満はあっても,あくまでスタッフ同士で話すだけ。そして最後は,「仕方ないよね,ブラック病院だから」と言って話を終えるのです。
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これらは,あくまで日常の一場面を取り出したにすぎませんが,A病院のスタッフは労働者である自分たちの権利について考え,主張できる方が多く,それが当然とみなされる組織風土がありました。
同時に倫理的感受性も高く,「あの患者さん,抑制いらないんじゃない?」「せめて日中,人がいる間だけでも外してみない?」などとディスカッションがよく行なわれていました。
B病院のスタッフも,患者さんによい看護を提供したいという思いは同じはずです。しかし,できない。その理由は,「ブラックな病院だから仕方ない」というものでした。私はこの経験を通して,「ブラック(な職場環境)だから」という理由で,労働者としての自分たちの権利を主張することができなければ,同じ理由で,患者・家族などクライアントの権利を守ることもできないのだと痛感しました。
働きやすい職場をつくるため,労働組合で一生懸命活動されている先輩。看護師資格制度の一本化を目指し,長年にわたってさまざまな取り組みを続けておられる全国准看護師看護研究会の方々。私の身近にいらっしゃる,こんな看護職の先輩をみていると,よい看護ができる環境は自分たちでつくっていかなければならないのだと思い知らされます。休憩室で愚痴をこぼしていても,何も変わらないんですよね。
追い立てられるようなゆとりのない環境では,良質なサービスを提供することはできません。「患者の権利と尊厳の擁護者を目指すなら,まずは自分の権利と尊厳から」という師匠の言葉を胸に刻み,きちんと意見を述べ,行動できる看護職者でありたいと思います。
[参考文献]
自民 小泉氏 医師の働き方改革で“看護師などへの業務移管を”(NHK NEWS WEB)
https://www.nhk.or.jp/politics/articles/statement/15151.html
神戸市看護大学