災害時避難所の運営は看護師長経験者に|看護時鐘(2024)
2024年幕開けの能登地震は,能登半島居住者らのそれまでの暮らしを一変させた。久々に帰郷した子女や孫を迎え家族揃ってお屠蘇を酌み交わし,くつろいでいたところの激震に津波が加わり,楽しい団欒や親しい笑顔,懐かしい声が一瞬にして奪われた。そして発災以来1月以上を過ぎてなお,寸断されたライフラインの復旧も壊れた住宅や家財の片づけの見通しも明るいとはいえない。長期間の断水による「水不足」は衛生状態悪化を招き,コロナやインフルエンザはじめ呼吸器,消化器感染症拡大が避難所生活の安全を脅かしている。また,低体温症やエコノミークラス症候群のリスクを抱えて,自主的避難所や農業ハウス内,車中泊を余儀なくしている方たちの苦難と苦渋に充ちた不安の日々に心を寄せずにはいられない。
温暖化に伴う自然災害の大型化は地球規模に及んでいるが,火山国であり河川の多い日本では,この30年近くのあいだに,阪神淡路,東日本,熊本大地震,そして福島第一原発事故のほか,毎年,観測史上初めてと報じられる豪雨,風雪被害も後を断たない。そのつど住居が破壊され流されたりして,それまでのコミュニティも暮らしも一変した人たちの様子は決して他人ごとではなく,明日のわがことになり得ることから改めて過去の災害時の教訓を思わずにはいられない。
災害は,人間が人間らしく生きて行く上での基本となる衣食住の全てを予告なく不自由にする。そのため,飲食料をはじめ災害時用品を各自で準備することを推奨されているが,家屋の倒壊や流出時には自分や家族のいのちを守ることに精一杯で,備蓄品などを持ち出す余裕はないのが当然であろう。
今回の地震でも洗濯できない上に持ち合わせの着替えのなさを嘆く被災者も多くいた。また,過去の災害時に指摘されていた女性の生理用品の不足なども改善されぬままである。食事に至っては,公設避難所でさえ冷たいおにぎりと袋入りのパンのみの食事期間が長く続いたようである。この寒気の中で被災者の心を癒やし,からだを温める温かな汁物類の提供を,食材の入手やマンパワー上の問題に帰したり,ボランタリーな炊き出しに依存することを,いつまでも当然視するわけにはいかない。
避難者の中には,服薬とともに塩分や糖分などの配慮の必要な高齢者が圧倒的に多いはずである。空腹を満たすだけではなく,栄養的な配慮が必要であることはいうまでもない。また,プライバシーの保たれない状況下で入眠もままならず,生理的欲求であるトイレ環境をはじめ住環境自体がストレスフルである。改善されないままの状態が長びけば長びくほど災害関連死を招く要因が高まるのは目に見えている。心のケア以前に,被災者の物理的な避難環境を整える視点とともに,できるだけ早く通常の生活に戻れる方策を講じるべきであろう。
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それにつけても自然災害の発生による被害の大小は,初期対応のいかんにかかっている。被災の情報は現場に近いほど多くあるが,現場の意志決定権はなきに等しい。したがって情報を素早くキャッチし,判断・集約できる指揮命令権を現地に委譲することが望ましい。とはいえ,現地自治体も被災し機能不全に陥っている場合も少なくない。今回の能登地震の混乱を大きくした要因は,地理的条件と新年早々という時期的な要因が重なった上に,この初期対応の遅れが指摘されている。東日本大震災の際は大津波と原発事故が重なり,その被害の態様は全て想定外とされた。だが,その想定外の事態に対する準備こそ重要で,その準備がなされていないことが被害をより甚大にする。
安全性の考え方に関して,「最悪の事態が起きても安全であること」「99パーセント安全でもその残りの1パーセントに事故が潜んでいる」との武谷1)の言葉を今1度噛みしめてみたい。ハード面での復旧,復興の道程も長期化が予想されるが,被災した方たちが限りある寿命を損なわないためにも,避難所での衣食住生活のきめ細かい見直しが求められる。
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そこで改めて,東日本大震災発災から10年以上にわたって,看護専門職ボランティアチームによる支援活動を通して得た知見から,今後,災害避難所の管理運営は,病院の看護部長ないしは病棟看護師長経験者に委ねるしくみを提言したい。
規模の大小を問わず病院の看護部門は,入院患者の療養上の生活全体に責任を負い,院内のほとんどの職種との接点を持って,日々実際に看護を提供するスタッフを動かしている。医学的知識に基づいたプライマリケアを心得,コロナ禍でも力を発揮した感染対策や防禦策にも長けている。したがって,個々の避難者の状態を総合的に観察しながら避難所全体の様相を把握し,必要に応じて避難者の個別の心身,生活行動面の悩みや不具合の相談を受け,対処できる。
そのためには,常時から避難所運営に必要な研修を経て登録するシステムを設け,災害時には,DMATのようにチーム編成をして速やかに避難所で活動できるような体制を整える必要がある。先の東日本の経験からも現役の看護師である必要はなく,むしろリタイア看護師らの人生経験をも加味した看護実践力が大いに期待できると思う。このような看護の力を災害時の避難所管理に活かすことで,看護という職能の社会貢献の幅がより拡がることは間違いないだろう。
[文献]
1)武谷三男:安全性の考え方,岩波新書,1967.
オン・ナーシング,第10号,2024.

かわしま・みどり 医療法人財団健和会臨床看護学研究所所長
看護師
日本赤十字女子専門学校(現在の日本赤十字看護大学の前身)卒業,日本赤十字社中央病院(現在の日本赤十字社医療センター)勤務。その後,卒後研修,看護基礎教育などに携わる。1995年若月賞,2007年ナイチンゲール記章,2015年山上の光賞受賞。日本赤十字看護大学名誉教授。
主な著書に『ともに考える看護論』(医学書院,1973年),『キラリ看護』(医学書院,1993年)、『看護の力』(岩波新書,2012年),『いのちをつなぐ─移りし刻を生きた人とともに』(看護の科学社,2018年),『川嶋みどり看護の羅針盤 366の言葉』(ライフサポート社,2020年),『生活行動援助の技術 改訂第3版』(看護の科学新社,2021年),『ベッドサイドからケアの質を問う』(共著)ほか多数。
現在,「オン・ナーシング」に「看護時鐘」連載中。

